【新刊】『酒場の君』武塙麻衣子
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「私はこの夜をきちんと覚えておこうと思った」
横浜、野毛、鶴見、川崎、西荻窪、渋谷、武蔵小杉、湯島、早稲田、そして長野、名古屋、京都━━。忘れえぬ酒場40軒の思い出。
私家版ながら大きな話題を呼んだ『酒場の君』が書き下ろしを加えてついに書籍化! 文筆家・武塙麻衣子待望のデビュー単行本となるエッセイ集。
「この世の中に存在する「酒場」は数知れない。本を読んでも読んでも決して読み尽くせないのと同じように、毎日どんなに食べ歩いたとしてもすべての店を訪れ尽くすことは到底できない。でもだから楽しいのだと思っている。
私には私だけの酒場白地図というものが頭の中にあり、好きなお店や何度も行きたいお店、行ってみたいお店などを日々その地図に少しずつ書き込んでいく。その作業が楽しい」(「はじめに」より)
【本文より】
酒場で一番大切なことはその場所に馴染みきることだと私は思っていて、目立たず邪魔せずもとからその場所にあったみたいな(大きな古い時計とかどこかの電気会社のカレンダーとか)そういうものになれはしないかと、私はいつももぞもぞ変な動きをしてしまう。
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隣に来たお姉さんたちに「美味しそうに食べるねぇ」 声をかけられ、「えへへ、どうも」と乾杯する。美味しそうに食べるというのは別に私の特技でもなんでもなく、ただただ口の中の食べ物が素晴らしいというだけなのだけど、私はそれをまるで自分の手柄か何かのように「だって美味しいですからね」とつい胸を張ってしまうのだ。
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この季節にはこの店のこの料理を食べたい、というのはとても贅沢な願いだなぁと思う。また来年も美味しいですねぇとたくさん言える日々でありますように。「ご馳走様でした」と外に出ると、雨がやんでいた。
【著者プロフィール】
武塙麻衣子(たけはな・まいこ)
1980年横浜生まれ。立教大学文学部卒業。客室乗務員、英語講師などの職業を経て作家となる。日記ZINE『驟雨とビール』『頭蓋骨のうら側』など。『群像』2024年6月号より小説「西高東低マンション」を連載中。
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